育休中のお金に関する疑問を解消:収入、給付金、税金、社会保険の仕組みと手続き
はじめに:育休中のお金、漠然とした不安を解消するために
産前産後休業(産休)や育児休業(育休)の取得を考える際、多くの方が「お金はどうなるのだろうか」という不安を抱かれるかと思います。特に、育休中は給与の支払いが原則としてないため、収入が途絶えることへの心配は大きいでしょう。
しかし、育休期間中には、公的な給付金制度や社会保険料の免除制度など、経済的な支援が複数用意されています。これらの制度を正しく理解し、適切な手続きを行うことで、経済的な不安を軽減し、安心して育児に専念することが可能になります。
この記事では、育休中の主な収入源となる育児休業給付金に加え、育休期間中の税金(所得税・住民税)や社会保険料(健康保険・厚生年金保険)がどのように扱われるのか、そして必要な手続きについて詳しく解説します。ご自身の状況と照らし合わせながら、お金に関する疑問や不安の解消にお役立てください。
育休中の収入はどうなる?基本を押さえましょう
まず理解しておきたいのは、育児休業期間中は、原則として会社からの給与は支払われないということです。労働基準法や育児・介護休業法において、休業中の給与支払いは会社の義務とはされていません。会社の就業規則等で独自の給与規定が設けられている場合もありますが、多くの場合は無給となります。
育休期間中の主な経済的支えとなるのは、雇用保険から支給される「育児休業給付金」です。これは、育児のために休業する労働者の生活を支援し、雇用の継続を促進するための制度です。
育児休業給付金について:仕組みと申請手続き
育児休業給付金とは
育児休業給付金は、雇用保険の被保険者が育児休業を取得した場合に支給される給付金です。ハローワークから支給されます。
支給要件
育児休業給付金の主な支給要件は以下の通りです。
- 育児休業を開始した日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある(または就業した時間数が80時間以上である)月が12ヶ月以上あること
- 育児休業期間中に、休業開始前の1ヶ月当たりの賃金の8割以上の賃金が支払われていないこと
- 育児休業期間中の就業日数が、支給単位期間ごとに10日以下であること(休業終了日が含まれる支給単位期間は、就業している時間が80時間以下であること)
- 期間を定めて雇用される者(パートタイマー等)の場合は、原則として子が1歳6ヶ月になる日までに労働契約が満了することが明らかでないこと
これらの要件を満たせば、会社の規模に関わらず、育児休業給付金の支給対象となります。
支給額の目安
育児休業給付金の支給額は、原則として「休業開始時賃金日額」を基に計算されます。
- 育児休業開始から6ヶ月まで:休業開始時賃金日額 × 支給日数(通常30日)× 67%
- 育児休業開始から6ヶ月経過後:休業開始時賃金日額 × 支給日数(通常30日)× 50%
「休業開始時賃金日額」は、原則として育児休業開始前6ヶ月間の賃金を180で割った金額です。支給額には上限額と下限額が定められています。
申請手続きの流れと注意点
育児休業給付金の申請は、原則として事業主(会社)を経由して行います。
- 会社へ育児休業の申し出: 育児休業開始予定日の1ヶ月前(期間雇用者は2週間前)までに会社に申し出ます。
- 会社が書類を準備: 会社が「育児休業給付金支給申請書」などの必要書類を準備します。この際、申請者が用意すべき書類(母子健康手帳の写しなど)を会社から指示されます。
- 会社からハローワークへ申請: 会社が申請書類をハローワークに提出します。通常、育児休業開始日から4ヶ月を経過した日以降に、最初の申請が行われます。その後、原則として2ヶ月ごとに申請が必要です。
- ハローワークから支給決定通知・振込: ハローワークが審査を行い、支給が決定すれば、会社経由または申請者本人に通知され、指定口座に給付金が振り込まれます。
手続きは会社の担当者が行うことが一般的ですが、中小企業等で担当者が慣れていない場合は、ご自身でも申請書の記載内容や必要書類を確認し、漏れがないように会社と連携することが重要です。
育休中の税金:所得税と住民税
育児休業期間中は、税金に関していくつか知っておくべき点があります。
所得税について
育児休業給付金は、税法上「非課税所得」として扱われます。つまり、育児休業給付金に対して所得税はかかりません。
育休期間中に会社からの給与収入がない場合、収入は育児休業給付金のみという方も多いでしょう。この場合、給与という課税所得がないため、原則として所得税の負担は発生しません。
住民税について:育休中の支払い
住民税は、前年の所得に対して課税され、通常は6月から翌年5月にかけて納付します。育休期間中であっても、前年に一定以上の所得があった場合は住民税が課税されます。
住民税の納付方法は、会社員の場合、給与から天引きされる「特別徴収」が一般的ですが、育休に入り給与が支払われなくなると、特別徴収ができなくなります。この場合、納付方法を「普通徴収」に切り替える手続きが必要になるのが一般的です。
普通徴収に切り替わると、市区町村から自宅に納付書が送付され、ご自身で金融機関などで納めることになります。納付は年4回(通常6月、8月、10月、翌年1月)です。会社が手続きをしてくれる場合が多いですが、ご自身の住民票のある市区町村の役所や会社の経理担当者に確認しておくことが重要です。
育休中は収入が減少するため、住民税の支払いが負担になる可能性もあります。事前に支払い額を確認し、計画を立てておくことをお勧めします。
育休中の社会保険料:免除制度を活用する
健康保険料と厚生年金保険料といった社会保険料も、育休期間中は免除される制度があります。
社会保険料免除制度の仕組み
産前産後休業期間中および育児休業等期間中に、一定の要件を満たせば、本人分および会社負担分の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)が事業主からの申し出により免除されます。
この免除期間中も、被保険者資格は継続され、将来の年金額の計算等においては、保険料を納めた期間として扱われます。これは、育児休業期間中の経済的負担を軽減しつつ、将来の保障にも影響を与えないための重要な制度です。
免除期間と手続き
- 産前産後休業期間中の免除: 産前産後休業開始月から終了予定日の翌日の月の前月まで。
- 育児休業等期間中の免除: 育児休業等を開始した日の属する月から、育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月まで。
社会保険料免除の手続きは、事業主(会社)が行います。「育児休業等取得者申出書」を会社の所在地を管轄する年金事務所または健康保険組合に提出することで、免除を受けることができます。
この手続きも会社が行いますが、正確に手続きが行われたか、ご自身の健康保険証の記載等に影響がないかなど、会社に確認しておくことが安心につながります。
免除による将来への影響
前述の通り、社会保険料が免除された期間も、将来受け取る年金額の計算においては、保険料を納めた期間として扱われるため、育休取得が将来の年金額に不利な影響を与えることはありません。
年末調整と確定申告:育休中の手続き
育休期間中の年末調整や確定申告について知っておくべきポイントです。
年末調整について
年末調整は、その年の1月1日から12月31日までの1年間の所得に対してかかる所得税の精算を会社が行う手続きです。
育休期間中であっても、その年の途中に会社から給与の支払いがあった場合は、原則として会社の年末調整の対象となります。育休中に支払われた給与がない場合でも、年の途中で育休に入った場合などは、育休に入る前の給与に対する年末調整が必要になることがあります。
会社から年末調整に必要な書類(保険料控除申告書など)の提出を求められる場合がありますので、会社からの案内に従ってください。
確定申告について
確定申告は、年間の所得とそれに対する所得税額を計算し、税務署に申告・納税する手続きです。
育児休業給付金は非課税所得のため、育児休業給付金のみが収入である場合は、確定申告をする必要はありません。
ただし、以下のような場合は確定申告が必要になることがあります。
- 育休期間中に、会社から給与や賞与が支払われた場合(金額によっては不要な場合もあります)
- 育休期間中に、給与や育児休業給付金以外の所得(副業、不動産収入など)があった場合
- 医療費控除や住宅ローン控除などで還付を受けたい場合
ご自身の状況が確定申告の対象になるか不明な場合は、税務署や税理士に相談するか、国税庁のウェブサイト等で確認してください。
会社への確認事項:お金に関する手続きで忘れずに
中小企業等で産休・育休取得の前例が少ない場合、会社側も手続きに不慣れな可能性があります。ご自身でも制度を理解し、会社と協力して手続きを進めることが重要です。お金に関する手続きに関して、会社に確認すべき主な事項は以下の通りです。
- 育児休業給付金の手続きについて: 申請書の準備、提出時期、誰が担当するか。必要書類は何か。
- 住民税の納付方法の変更について: 育休期間中の住民税の納付方法(普通徴収への切り替え)は会社が行うか、ご自身で行うか。会社が行う場合、必要な手続きや時期は。ご自身で行う場合、市区町村への連絡はいつどのように行うか。
- 社会保険料免除の手続きについて: 育児休業等取得者申出書は会社が提出するか。提出時期は。
- 年末調整について: 育休期間中の年末調整は会社の対象となるか。必要な手続きや提出書類は。
- 会社の独自の規定: 就業規則などで、育休中の給与や賞与に関する独自の規定があるか確認する。
これらの点について、会社の担当者(人事、総務、経理など)と丁寧に確認を進めてください。疑問点があれば、納得いくまで説明を求めることが大切です。
よくあるお金の疑問
育休中に副業は可能か?
育休中に副業を行うことについて、法律上の明確な定めはありません。ただし、会社の就業規則で副業が禁止されている場合は、これに従う必要があります。また、育児休業給付金は育児のために休業していることを前提とした給付金であるため、多額の収入を得るような働き方をした場合、支給要件から外れる可能性もゼロではありません。副業を検討する場合は、会社の就業規則を確認し、必要に応じて会社に相談することをお勧めします。
家族の扶養に入れるか?
育休期間中の収入が育児休業給付金のみで、他に所得がない場合など、所得要件を満たせば、配偶者等の健康保険や税金上の扶養に入れる可能性があります。扶養の要件は、扶養の種類(健康保険、所得税、住民税)によって異なりますので、扶養する側のご家族の勤務先や税務署等にご確認ください。
住民税の支払いが困難な場合
育休中は収入が減る一方で、前年の所得に基づく住民税の支払いが負担になる場合があります。住民税の納付が困難な場合は、お住まいの市区町村の税務課に相談することで、分割払いや徴収猶予などの制度を利用できる場合があります。早めに相談することが大切です。
まとめ:お金の準備で安心して育休を
育児休業中のお金に関する制度や手続きは多岐にわたりますが、一つずつ理解し、準備を進めることで、経済的な不安を大きく軽減することができます。育児休業給付金の申請、住民税の納付方法の切り替え、社会保険料免除の手続きなど、ご自身が関わる可能性のある手続きについて、この記事で基本的な情報を把握していただけたかと思います。
中小企業等で手続きの前例が少なく不安な場合は、会社の担当者と密にコミュニケーションを取り、疑問点があれば必ず確認してください。また、必要に応じて、ハローワーク、年金事務所、市区町村の役所といった公的機関の窓口に相談することも可能です。
お金の準備をしっかりと行い、心穏やかに育児休業期間を過ごせるよう、計画的に準備を進めていきましょう。この記事が、皆さんの育休準備の一助となれば幸いです。