【もしもに備える】産休・育休取得を妨げられたら?労働者の権利と相談窓口ガイド
産前産後休業(産休)や育児休業は、働く女性や男性にとって大切な権利です。しかし、会社の規模に関わらず、実際に取得を考える際に、会社とのコミュニケーションに不安を感じたり、万が一スムーズに進まなかった場合の対応に悩んだりすることもあるかもしれません。
特に、社内で産休・育休取得の前例が少ない場合、「本当に取得できるのだろうか」「会社から何か言われたらどうしよう」といった不安を抱えるのは自然なことです。この記事では、産休・育休に関する労働者の基本的な権利と、もしも取得に関して会社との間で問題が生じた場合に利用できる相談先について解説します。事前に知識を備えておくことで、より安心して産休・育児休業の準備を進めることができるでしょう。
産休・育休は法律で定められた労働者の権利
まず大前提として、産休・育児休業を取得することは、法律で働く人に認められた正当な権利です。会社は原則として、労働者からのこれらの休業の申し出を拒否することはできません。主な根拠となる法律は以下の通りです。
- 労働基準法: 産前産後休業(産休)について定めています。労働者からの請求があれば、使用者は産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後8週間の就業をさせてはならないとされています(産後6週間は強制休業、産後6週間経過後は医師が支障ないと認めた業務に限り就業可能)。
- 育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律): 育児休業について定めています。原則として、子が1歳になるまでの間(一定の要件を満たせば最長で子が2歳になるまで)、育児のために休業を取得できることが定められています。また、子の出生後8週間以内に取得できる出生時育児休業(産後パパ育休)についても定められています。
これらの法律により、要件を満たす労働者が産休・育児休業の取得を申し出た場合、会社はこれを拒否することはできません。また、これらの休業の取得を理由として、労働者に対して解雇その他の不利益な取り扱いをすることも法律で禁止されています。
会社が産休・育休取得を拒否できないケースとは?
育児・介護休業法において、会社が育児休業の申し出を拒否できる例外的なケースが定められています。しかし、これはごく限定的な場合です。
例えば、労使協定(労働者の過半数で組織する労働組合か、労働者の過半数を代表する者と会社との間で締結される書面による協定)によって、以下の労働者を育児休業の対象から除外できる場合があります。
- 入社1年未満の労働者
- 申し出から1年以内に雇用期間が終了する有期契約労働者
- 週の所定労働日数が2日以下の労働者
ただし、この労使協定を結んでいるかどうかも含め、多くの場合、法律で定められた要件を満たせば育児休業を取得できます。会社が「前例がないから」「業務が回らなくなるから」といった理由だけで、法律上の要件を満たす労働者の育児休業申し出を拒否することは認められていません。
不利益な取り扱いとはどのようなものか?
産休・育児休業の取得に関連して禁止されている「不利益な取り扱い」とは、具体的にどのようなものを指すのでしょうか。例としては、以下のような行為が挙げられます。
- 休業の申し出や取得を理由とする解雇
- 退職の強要
- 不当な降格や減給
- 不利益な配置転換(例:休業後に全く畑違いの部署に異動させられる、遠隔地に異動させられるなど、育児の状況を著しく困難にするような配置転換)
- 賞与や昇給・昇進において、休業期間を不当に評価対象から除外したり、マイナス評価したりすること(休業しなかった場合と同等の評価をすることは困難な場合もありますが、休業を理由として不当に評価を下げることは禁じられています)
- 就業規則にはない不利益な取り扱い(例:休業取得者にだけ特別なペナルティを課す)
- 継続雇用契約の更新を拒否すること(有期契約労働者の場合、育児休業取得を理由とした雇止めは無効となる場合があります)
- 「〇〇さん(育休取得者)のせいで他の人が大変だ」といった嫌がらせ(育児休業ハラスメントに該当する可能性があります)
これらの行為は、産休・育児休業の取得を妨げたり、取得を躊躇させたりすることにつながるため、法律で禁止されています。
もしも会社との間で問題が発生したら?対応ステップと相談先
産休・育児休業の取得について会社との間でスムーズに進まない場合や、不利益な取り扱いを受けたと思われる場合は、一人で抱え込まず、速やかに外部の機関に相談することが重要です。
対応ステップの例
- 状況の整理と記録: いつ、誰に、何を伝え、会社からどのような回答や対応があったのか、具体的な日付、担当者名、会話の内容、受け取った書類などを詳細に記録します。メールなどの文書でのやり取りも保存しておきます。
- 会社の就業規則等の確認: ご自身の会社の就業規則や育児休業規程などに、産休・育児休業に関する規定がどのように定められているかを確認します。ただし、会社の規程が法律を下回る場合は、法律が優先されます。
- 会社への確認・交渉: 可能であれば、会社の担当部署(人事部など)や上司に対し、法的な根拠に基づいて、なぜ休業を取得できないのか、なぜそのような扱いを受けるのか、説明を求め、話し合いを行います。感情的にならず、冷静に事実と法律に基づいて主張を伝えることが大切です。
- 外部の相談窓口への相談: 会社との話し合いで解決しない場合や、話し合いが難しい場合は、速やかに以下の外部機関に相談します。
主な相談先
万が一の際に頼りになる相談先は複数あります。状況に応じて適切な窓口を選びましょう。
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):
- 育児・介護休業法や男女雇用機会均等法に関する専門部署です。
- 会社に対する助言や指導、あっせん(紛争解決の手続き)などを行ってくれます。
- 不利益な取り扱いやハラスメントなど、法律違反の疑いがある場合に力になってくれます。
- 匿名での相談も可能な場合があります。
- ハローワーク(公共職業安定所):
- 雇用保険に関する専門機関であり、育児休業給付金の申請窓口でもあります。
- 育児休業制度全般に関する相談や、給付金に関する手続きの相談ができます。
- 雇用継続や再就職支援に関する情報も得られます。
- 弁護士:
- 法的な専門家として、個別の状況に応じた法的なアドバイスや、会社との交渉、訴訟などの手続きを依頼できます。
- 労働問題に詳しい弁護士に相談することが望ましいです。法テラスを利用すれば、経済的な援助を受けられる場合もあります。
- 労働組合:
- もしご自身の会社に労働組合があれば、組合に相談することで、会社との交渉をサポートしてもらえます。
- 会社の労働組合がない場合でも、地域や産業別の合同労働組合(ユニオン)に加入して相談することも可能です。ユニオンは個人でも加入できる場合が多く、会社との団体交渉などを通じて問題解決を図ってくれます。
- 市町村の相談窓口:
- 自治体によっては、働く女性のための相談窓口などを設置している場合があります。情報提供や、適切な相談先への橋渡しをしてくれることがあります。
これらの相談窓口は、それぞれ得意とする分野やできることが異なります。まずは労働局の雇用環境・均等部(室)やハローワークなど、公的な窓口に相談してみるのが良いでしょう。そこで解決しない場合や、より専門的な対応が必要な場合に、弁護士や労働組合への相談を検討するのも一つの方法です。
事前の確認が不安解消につながる
産休・育児休業に関して不安を感じる場合、最も重要なのは「正確な情報を集め、早めに準備を始めること」、そして「会社とのコミュニケーションを丁寧に行うこと」です。
- ご自身の会社の就業規則や育児休業規程を確認する
- 会社の担当部署(人事労務など)に、規定や手続きについて確認する
- 社内で育児休業取得者がいるか、もしいるなら経験者に話を聞いてみる
といった行動が、不安の解消につながります。もし会社に規程がなかったり、説明を求めても曖昧だったりする場合は、この時点で労働局などの外部機関に相談してみるのも良いかもしれません。
産休・育児休業は、法律で守られた大切な権利です。この記事の情報が、万が一の事態に備え、安心して休業を取得するための助けとなれば幸いです。
関連情報
- 育児・介護休業法に関する厚生労働省のウェブサイトなどを参照し、最新の制度内容をご確認ください。
- 会社の就業規則は、社員が閲覧できるように会社が備え付けていることが義務付けられています。必要であれば会社の担当者に確認して閲覧しましょう。
免責事項: 本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する法的な助言を構成するものではありません。特定の状況に関しては、専門家(弁護士など)に相談されることをお勧めします。